解説編-1.不安を減らしていくためには

 不安は、人の心に大きな影響を与えます。時として、それは、行動という形に表れてしまうほど強大な力を持っています。現代では、その不安が社会を形作っていると言ってもよいほどです。たとえを示してみましょう。

  • 事故にあうかもしれないから保険に入る
  • いつ何があるかわからないから貯蓄をする
  • 恋人が浮気をしているかもしれないから携帯電話をチェックする

 テレビのニュースをみても、不安を掻き立てるようなことばかりを、ことさらに選んでいるとさえ思いませんか?よく聴いていると、「実は、知らなくてもいいことがたくさんある。」ということに気づくはずです。それでも、多くの人は好んで不安をかきたてているようにさえ見えます。そして、その不安によってストレスを感じ、それが自分自身にマイナスに作用していると思いながらも、不安をなくそうという活動はほとんどしていません。

 ここでは、不安というものは多くの場合、今現在はおきていないことがほとんどだということに気づいてもらいたいと思ったのです。例に示したように保険に加入したり、貯蓄をすることが悪いということではありません。しかし、今現在のあなたは、特に事故を起こしてもいないし、何か突発的な支出が発生しているわけではないはずです。

 ところが、不安を感じているという状態で、人は頭からその不安を離すことができなくなります。さらに、不安が不安を呼び寄せて不安を増大させるという創造さえ働かせます。たとえば、よくあるこんな話。貴方は思い当たりませんか?

 「私は、恋人と部屋に二人きりでいた。ふと、恋人の携帯電話がなる。恋人は、少し遠慮がちに電話に出て話し始めた。いつもとは感じが違うような気がする。声もひそひそしているようだ。なぜか、私に背を向けているし。どうしたんだろう。恋人の声は次第に弾んできた。時には笑顔さえ見せている。突然立ち上がったと思うと、恋人は電話の相手と話したままドアの外に出て行った。しばらくたった後、恋人は何事もなかったかのように部屋に戻ってきた。翌日、私は机におかれたままだった恋人の携帯電話の着信履歴を覗き見た。その着信履歴は消去されていた。不安が私の中によぎった。」

 さて、この話の本人の不安が不安を呼んでいる過程を見てみましょう。

  1. 携帯電話に出たこと→携帯電話の相手は誰なんだろう。
  2. ひそひそ声で話している→知られたくない話なのではないだろうか。
  3. 笑顔を見せる→異性なのではないだろうか。
  4. 部屋を出て行く→浮気をしているのではないだろうか。
  5. 着信履歴が消去されている→浮気をしているに違いない!

 いかがですか?このような考えが脳裏をよぎったことがある人は多いのではないでしょうか。
実は、 この話の中で唯一確実なことは、自分の恋人が誰かと話しているという、今、おきている事実だけです。それ以外はすべてが推測であり、予測です。電話の相手が異性かどうかは、本人に聞いてみて初めてわかることです。さらに、浮気をしているかどうかは、恋人が認めて初めて浮気であることがわかるのです。

 このように、多くのことは、本人が実際に行動を起こすその瞬間まで事実はわかりません。そのときまで、不安で胸がきりきりと痛むような状況で、自分を責め続ける必要などどこにもないのです。

 人は、あらゆる場面でこのように「不安劇場」を自ら脚本・構成し、実演までしてしまいます。言い方を変えれば「すばらしい創造力」ともいえるでしょう。ところが、場面が自分への期待やよい将来に関するものになると、突如として厳しい現実という言葉が力を増してきます。ばら色の将来を夢に描こうとすれば、即座に「ばからしい」・「まあ、そんなことあればいいけど・・・」というように実に消極的な思考に陥ってしまいます。「不安劇場」で培った創造力はいったいどこへ行ってしまうのでしょう。

 さて、ばら色の将来を思い描くという行動は、貴方にとってマイナスに作用するのでしょうか?そのことがストレスの原因になってしまうのでしょうか?不安な将来とばら色の将来、それを創造するとき、どちらのほうが自分にとってマイナスに作用するのかということを考えれば答えは明白です。

 不安は多くの場合、自分自身にストレスを与え、自分を苛め、ひいては携帯電話の事例のように対人関係における疑心暗鬼さえ生み出してしまいます。一方で、明るい未来への期待や希望は、少なくとも、そのことでストレスが生み出されるということはまれなのではないでしょうか。

 今回のエクササイズは、「不安が実は、《今は起きていない》《本当におきるかどうかはそのときにならなければわからない》ということに気づくきっかけとなるエクササイズです。さらに、不安がそこにあったとしても、それは「今、取り組まなければどうにもならないことなのか?」、「不安でない状態でいるなにか別の手法があるのではないか?」ということを発見するチャンスともなります。

 このエクササイズは、自分が不安を感じるときに「今」に意識を集中させるためによい訓練となるととも、不安そのものが実は実体のないものだと気づかせれくれるよい機会を与えてくれます。また、不安を感じている自分に気づくことによって、不安の渦に巻き込まれている自分から、一歩退き、今の自分がしたほうが良いことや建設的な思考へとその考え方を変化させるための良い訓練となりるのです。

 ふと不安が脳裏に浮かんだとき、「これは、今、考えなければいけないこと?」と自問自答してください。もし、貴方が風呂に入っているときだったとしたら、「今、私はこんなことを考える前に、体をきれいに洗おう」と考えればいいのです。簡単ですよね!

 

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